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さて、舞台は海辺の町に変わります。昔話では、浦島太郎の家族関係は定かではありません。なんとなく独身の若者のように思っていますが、実際は両親も妻子もいたということで始めます。亀とは、津波のことです。竜宮も、残された家族の、楽しい国へ行ってくれという願いのことです。最後の帰りたいと言う気持ちについては、津波に流されて覚悟を決めた時の、家族を思う気持ちの表れだったのです。しかしその願いはむなしくならざるをえません。それが、乙姫がくれた玉手箱の煙の意味です。
今回の主人公は、浦島太郎の子孫がたくさん住む町の、小学生たちです。その多くは、3.11の津波で、家族や知人を失っています。
お盆の少し前に、臨海学校で、沖の小島の砂浜へ行きました。学校で飼っている犬のポチが、波打ち際の、ほとんど埋まっている流木に向かって、「ここ掘れワンワン」と吠えていました。みんなで流木を掘り出し、引き摺って、その夜、キャンプファイヤーにくべると、真っ白い煙と、何とも言えない良い香りがしました。先生が、すぐに引き出して、火を消して、「この木の正体」を夏休みの自由研究にしようといいました。
臨海学校から帰った翌日の特別登校日は、市の図書館でした。最近の図書館は、入り口にロボットが立っていて、案内や検索の手伝いをしてくれます。この図書館の本だけでなく、世界中の本のすべてがインプットされていて、テーマと学年を言うと、それに沿った本を教えてくれたり、必要ならその項目についての説明をしたりします。今日はこのロボットが香元です。
図書館の5階には、インターネットの会議室が在って、みんなでSNSに参加できるようになっています。それぞれがボタンを押して参席。香りで物語を楽しむ「香昔(こうじゃく)物語」というサイトに入りました。いつもの庭園の、植木や石組を巡る曲水のあちこちに、赤い毛氈 (もうせん)と日傘が設(しつら)えてあって、生徒たちが客として座っています。水源に当たる東屋(あずまや)に今回の香元(こうもと)であるロボットが座っています。筆記用具と薫香録(くんこうろく)が盆に乗って流れてきます。盆から直接取ります。香元が宣言。「香始めます」。今日は「薫香香取り物語」の第4回です。「夏休み自由研究」の観賞香です。物語に沿って、香木や香りや言葉を観賞します。お手元の薫香録をご覧ください。文字が浮かんでくる。物語が始まる。
最初に見つかったのが、日本書紀です。香元が短冊を廻します。日本最古の歴史書である日本書紀。推古天皇の参年夏四月、沈水淡路島に漂ふ着けり。(推古3年(595年)4月に、香木が淡路島に漂着した)。其大き一囲、島人沈水を知らず、薪に交て竃に焼く、(一抱えほどの大きさだった。何だかわからないま薪に混ぜてまかまどにくべた)。
其煙気遠く薫る、則異なりとして献る。(煙と香りが遠くまで広がり、驚いて朝廷に献上した)。
次に見つかったのが「香の10徳」という、沈香の香りの効能の詩でした。香元が短冊を廻します。作者は中国の詩人、黄庭堅(1045-1105)。意訳は別。感動鬼神(感動できる、心になる)。清浄心身(苦しみに負けない、心になる)。能除汚穢(悩みに負けない、心になる)。能覚睡眠(諦めない、心になる)。静中成友(さびしさに負けない、心になる)。塵裡偸閑(迷いに負けない、心になる)。多而不厭(広い、心になる)。寡而為足(満足できる、心になる)。久蔵不朽(古びない、心になる)。常用無障(平常な、心になる)。
香元の解説が続きます。言葉の蓄えが少ない人の世界は、単純で変化が乏しい砂漠のようです。言葉の蓄えが豊富な人の世界は、複雑で豊かなサンゴ礁のようです。昆虫や植物や魚や小鳥や動物や星座の名前をたくさん知っている人は、そうでない人より、自然の中でより楽しく過ごすことが出来ます。香りについても同じ事が言えます。「香木の香り」という一言しか持たない人もいれば、五味六国の香りに分けられる人もいれば、その時の気分を詩に詠む人もいます。調香師のように、無数の香りの言葉を持っている人もいます。
感情についても同じ事が言えます。感情を表すたくさんの言葉を持つ人は、自分や他人の心を読むこと、制御することに巧みです。いい気持ちをただ「気持ちが良い」だけで済ます人と、楽しい、嬉しい、愛おしい、という言葉に使い分ける人では、自分や世界の見え方、生き方も違ってきます。やさしさや思いやりはここから生まれます。困難や苦難に挑戦する勇気や我慢や工夫の力もここから湧いてきます。人生の価値は、持っている言葉の質と数で決まります。
自分のことしか考えられない人は、労(いたわ)り、恩、感謝、思いやりなどという言葉を持つことで救われます。悲しみに囚われた人は、諦め、希望、未来などという言葉を持つことで救われます。憎しみに囚われた人は、諦め、許しなどという言葉を持つことで救われます。高慢な人は、畏れ。憐れみ、もののあわれ、悔い、恥などという言葉を持つことで救われます。うらやむ人は、誇り、自信などという言葉を持つことで救われます。
みんな忘れないうちに、自由研究としての薫香録を書き、盆に載せて、香元に代わった先生に向かって流しました。
先生は香元として「香満ちました」と宣言しました。
連日の猛暑。裏の保育園ではプール開き。子供たちの歓声が響く。
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん、遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ。 梁塵秘抄
陽が翳る頃、天の原財団から先日の続きの「お香の会」のお誘いメールが入ってきた。ボタンを押して参席。香りで物語を楽しむ「香昔(こうじゃく)物語」というサイトに入った。
いつもの庭園の、植木や石組を巡る曲水のあちこちに、赤い赤い毛氈 (もうせん)と日傘が設(しつら)えてあって、SNSで集まった人々が客として座っている。水源に当たる東屋(あずまや)に香元(こうもと)らしき人物が座っている。
筆記用具と薫香録(くんこうろく)が盆に乗って流れてくる。盆から直接取る。
香元が宣言。香始めます。今日は「薫香香取り物語」の第3回です。「黒色の香木」の観賞香です。物語に沿って、香木や香りを観賞します。お手元の薫香録をご覧ください。
文字が浮かんでくる。物語が始まる。
金色の香木の話からずっとたって、香取りの翁の墓だったあたりが森になった頃の或る日、また神鳴りが落ちた。
今回の主人公は「炭焼きの翁」だ。
去年妻を亡くして消気ている。
もうすぐ初のお盆がくる。妻が好きだった山百合を取りに森に入った。
首尾よく3本の花を採って、近道を抜けようと、数日前に、神鳴りが落ちたところを通った。
焦げた樹の根があった。
焼け焦げの奥に、こぶし大の黒光りする塊が見えた。
翁は、これは炭ではない何かだと思って手に取った。ずっしり重かった。匂いはしないが、頭の奥がしびれるような何かを発している。花と一緒に妻の仏壇に供えようと、ふところに入れた。
香元の声がする。「それはこんな香木でした」。香元が香木を盆に載せて流す。川上の客から順に、次客に礼をして、盆ごと流れから手元に置き、香木に礼をして拝見、流れに戻す。黒色で、石炭のようだった。
香元の声がする。お手元の薫香録をご覧ください。文字が浮かんでくる。物語が続く。
家に着いて、お盆の飾り付けをして、花と黒い香木を供えた。
仏壇の香炉に炭火を置き、香木を少し離して置いた。鼻ではなく心に染み込む霊気のようなものが漂ってくる。
香元の声がする。「それはこの香りでした」。香元が香炉を盆に載せて流す。川上の客から順に、次客に礼をして、盆ごと流れから手元に置き、香炉に礼をして聞香。盆に戻して、流れに戻す。水のような香りだった。
香元の声がする。お手元の薫香録をご覧ください。文字が浮かんでくる。物語が続く。
その晩、夢に妻が現れた。50年以上前、小料理屋で初めて出会った姿で、こんな歌を歌っていた。それは酔うと翁が愛唱する詩だった。
君歌陽叛児 (陽気な歌を歌ってよ)
妾勧新豊酒 (わたしのお酒を飲み干して)
何処最人憂 (何がそんなに悲しいの)
烏鳴白門柳 (カラスが柳で鳴いている)
烏鳴柳花隠 (カラスもあそこに泊まるのね)
君酔妾家留 (あなたもおうちに泊ってよ)
博山爐中沈香火(香炉の中の沈香火)
双煙一気紫霞凌(ふたり一気に昇天ね)
詩「爐中沈香火(ろちゅうじんこうか)」 李白(唐701~762)
翌朝、翁は、楽しい、嬉しい、愛おしい、喜びの全部が混ざった表情を浮かべて、旅立っていました。
次は、宗の時代に生まれた、香の10徳という有名な詩のお香です。
香満ちました。
自動的に天の原財団のホームページのトップに戻る。
陽が落ちても町は暑さがむんむんしている。
今夜は、喜多方ラーメンで冷やし中華にしてもらおう。
猛暑の日曜日。店は休み。
陽が翳る頃、天の原財団から昨日の続きの「お香の会」のお誘いメールが入ってきた。ボタンを押して参席。香りで物語を楽しむ「香昔(こうじゃく)物語」というサイトに入った。
いつもの庭園の、植木や石組を巡る曲水のあちこちに、赤い毛氈と日傘が設(しつら)えてあって、SNSで集まった人々が客として座っている。水源に当たる東屋(あずまや)に香元(こうもと)らしき人物が座っている。
筆記用具と薫香録(くんこうろく)が盆に乗って流れてくる。盆から直接取る。
香元が宣言。香始めます。今日は「薫香香取り物語」の第2回です。「金色の香木」の観賞香です。物語に沿って、香木や香りを観賞します。お手元の薫香録をご覧ください。
文字が浮かんでくる。物語が始まる。
村はずれの森に、神鳴りが落ちた。翌朝、香取の翁(こうとりのおきな)はいつものとおり、森に香木を探しに出かけた。森に近づくと、奥の方から芳香が漂ってくる。香りの道をたどっていく。
香元の声がする。「それはこの香りでした」。香元が香炉を盆に載せて流す。川上の客から順に、次客に礼をして、盆ごと流れから手元に置き、香炉に礼をして聞香。盆に戻して、流れに戻す。この世のすべての花の匂いが混ざったような複雑な香りだった。
香元の声がする。お手元の薫香録をご覧ください。
文字が浮かんでくる。物語が続く。神鳴りに打たれて焦げた大木が在った。芳香はその根元から漏れてくる。不思議に思って鉈(なた)で焦げた部分を掘っていくと、桃の実くらいの大きさの金色の半透明な塊が出てきた。鉈でたたくとキンキンと石のような音がする。今まで見たことの無い香木だった。
香元の声がする。「それはこんな香木でした」。香元が香木を盆に載せて流す。川上の客から順に、次客に礼をして、盆ごと流れから手元に置き、香木に礼をして拝見、流れに戻す。金色で、半透明な宝石のようだった。
香元の声がする。お手元の薫香録をご覧ください。
文字が浮かんでくる。物語が続く。翁は香木を家に持ち帰った。その晩、自然に割れて、中に小さな女の子が眠っていた。子供を早く亡くしていた夫婦は、「香具屋(かぐや)姫」と名付けて、大切に育てた。短期間ですくすく育って、地上のどの姫よりも可愛らしく成長した。夫婦は、姫を包んでいた香木に「卵若体(らんじゃたい)」と名付けて、少しずつ削って大切に用いた。
香元の声がする。「それはこの香りでした」。香元が香炉を盆に載せて流す。川上の客から順に、次客に礼をして、盆ごと流れから手元に置き、香炉に礼をして聞香。盆に戻して、流れに戻す。この世のすべての果物をはちみつに漬けたような、気が遠くなるような甘い香りだった。
香元の声がする。お手元の薫香録をご覧ください。
文字が浮かんでくる。物語が続く。「卵若体」の香りは、この世のどんな音楽よりも快く、どんな果物よりも甘かった。この世の最高の贅沢を味わいたいと思った権力者や豪商たちが押し寄せた。用いた香木の5倍の砂金が謝礼だった。一時は都中の砂金が流れ込む勢いだった。それからしばらく幸せに暮らしたが、姫は川向こうの牛牽きの若者と駆け落ち、怒った翁が勘当、音信不通になった。妻はショックであの世へ旅立った。翁はすべてを虚しく思い、全部の砂金で大きな香炉を鋳造させ、残りの香木のすべてを焚いた。
香元の声がする。「それはこの香りでした」。香元が香炉を盆に載せて流す。川上の客から順に、次客に礼をして、盆ごと流れから手元に置き、香炉に礼をして聞香。盆に戻して、流れに戻す。この世のすべての香辛料を煮詰めたような、深い苦さの香りだった。
香元の声がする。お手元の薫香録をご覧ください。
文字が浮かんでくる。物語が続く。白い煙と芳香が満ちて、翁は一気に歳を取って、間もなく妻の後を追い、同じ墓に入った。直後に戦乱が始まり、金の香炉は行方知れずになった。次の春、墓に香木の芽が生えた。木の胎内には、香木を宿す部屋が在る。水が蒸発して、雲になって、雨になって地上に戻ってくるように、二人が焚いた香りは、木の胎内で再結晶して、この墓が森になる頃、神鳴りと共に地上の誰かの手に戻ることになる。
実はあの木にも、香木は2つあったのだが、翁は、金色の香木しか気が付かず、そちらを持ち帰ったのだった。焼け焦げた炭だと思って、鉈(なた)で彫り捨てたほうは黒い香木だったのだ。金色の香木と焼け棒杭の黒い香木、どちらを持ち帰るかで、物語は変わってしまう。次回は黒い香木を選んだ翁の物語です。
香元が宣言。香満ちました。
自動的に天の原財団のホームページのトップに戻る。
テレビをつけると。相撲の初日で、大関3人が黒星スタート。高安も負けた。昨日造っておいたイワシの生姜煮で一杯やろう。
この数日、大分県や福岡県は、梅雨の大雨に襲われ甚大な被害だ。この前の地震や火山の記憶も生々しい。関東は晴れ。空梅雨。土曜は人出が多いはずなので開店する。
準備が一段落すると、パソコンにメールが在った。天の原財団からの、「SNSのお香の会」へのお誘いだ。参席というボタンを押すと、香りで物語を楽しむ「香昔物語」というサイトに入った。
いつもの庭園の、植木や石組を巡る曲水のあちこちに、赤い毛氈と日傘が設(しつら)えてあって、SNSで集まった人々が客として座っている。水源に当たる東屋(あずまや)に香元らしき人物が座っている。挨拶が始まった。
今日のお香に関係しますので、蛇足かもしれませんが、竹取物語のおさらいをします。お手元の薫香録(くんこうろく)をご覧ください。
文字が浮かんでくる。竹細工(たけざいく)を生業(なりわい)とする竹取の翁と呼ばれる者がいた。或る朝、竹を取りに竹林に入ると、根元が光る竹を見つけて、切ると小さな女子がいた。家へ連れ帰り「かぐや姫」と名付けて育て、美しく成長した。たくさんの男たちが求婚したが、本人はその都度不可能な条件を持ち出しては体よく断り続け、結局月へ帰ってしまう、という物語だ。いつ頃書かれたかは不明だが、浦島太郎や七夕物語と同様に、大陸にルーツを持つ、古い伝説なのだろう。似たような話が今も各国にある。
ページが変わって、「竹取物語から二つの香取り物語へ」という見出しに続く。
竹取物語の作者は、世界をどのようなものだと信じていたのだろう。地上から月を見上げていたのだろうか。月から地上を見下ろしていたのだろうか。
ここで別の疑問も湧く。月とはどこなのか、だ。
一つ目の答は死者の国、いわゆる「あの世」だ。かぐや姫は皆に惜しまれ、見守られながら、死者の国へ連れて行かれたのだ。
もうひとつの答は、かぐや姫という一人の人間の、心の中の、葛藤と成長の物語だ。迷いの「この世」から、悟りの「あの世」への旅立ちだ。かぐや姫は死んだのではなく、めでたく悟りを開いたというハッピーエンドになる。
「この世」と「あの世」という言葉が在る。一つ目の答なら「この世」は生きている間の世界で、「あの世」は死後の世界だ。
二つ目の答なら、「この世」は感覚や感情の心が映し出す現在の現実の具体的な世界で、「あの世」は言葉の心が言葉で組み立てる、記憶の過去や願望の未来の抽象的な世界だ。
きっと、この物語の作者は一つ目の答を信じたふりをして、二つ目の答を暗示しているのだろう。読者は、ふと、かぐや姫の立場に自分を置いて、月の世界から地上を見降ろしているような気分に誘われるのだろう。もしこの予感の通り、かぐや姫の立場に立って、月の住人になってみたら、この物語はどうなるのだろう。月の世界が本当で、地上は異世界で、言いよってきた人々すべてが異人だということになる。異人たちからの誘惑に打ち勝って、無事に帰国したという話だ。
心の成長過程に例えれば、異世界とは感覚や感情の心が映し出す現在の現実で、異人たちは感覚や感情の心に生じる迷いとか誘惑の象徴で、無事に帰国というのは言葉の心が完成して、悟りを開いたということになる。
そういうことで、この「香取り物語」は二つ目の答に沿って話を進める。
が、しかし、まず一つ目の答に沿っての物語(1)から始めなければならない。実はそちらの方が琴線に響く。
香元が水入りの宣言をする。これより香席ですが、準備の都合上、今日はこれまでとします。自動的にサイトが閉じて、天の原財団のホームページに戻った。
現実の店は暑過ぎて客はなく、いつものパン屋で、焼きそばパンとアイスカフェラテの昼食。午後も客はなく昼寝だった。やっと陽が翳ってきたので、今日こそ売り切れる前に入梅イワシを買おうと、店を早仕舞にした。もう入梅ではないが、3度洗えばタイの味というのは本当だ。
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