昨夜のうちに天の原財団からメールが入っていた。
ネットの上でのお香の会の招待状だ。
ボタンを押して入る。
そこは前回と同じ、銀河2号列車の座敷だ。
「苦の香席」とある。
着席する。
香元を挟んで、このSNSでつながっているたくさんの客が輪になって座っている。体の無い言霊として参加している。かぐや姫2号もその中に居る。
鉛筆と、今日の「薫香録」の用紙が配られる。日付と下の名前をひらがなで書く。
香元が「唱和しましょう」と言う。薫香録に文字が浮かんでくる。
金子みすず。つもった雪
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面(じべた)もみえないで。
最初は観賞香です。今日の香木「苦」がどんな香りかを記憶するために、言葉にして下さい。
「香炉が廻ってくる。渋茶のような苦味がする。そのあとで心の中から甘みが湧いてくる。薫香録にその旨を記入する」。
これまで習った9種の香木「乳」「甘」「樹」と「銀」と「花」と「橘」と「渋」と「金」と「辛」と今日の「苦」を合わせて10種の香木を用いて、十種香をします。
10種の香木をそれぞれ10包ずつ作り、かき混ぜて、10包選び、順に香炉に載せて、廻します。
「1炉目が廻ってくる。「甘」の香りがする。薫香録に縦線を記入する。2炉目が廻ってくる。「辛」の香りがする。薫香録の最初の線の左に縦線を加える。3炉目が廻ってくる。「苦」の香りだ。2炉目の線の左に縦線を加える。4炉目が廻ってくる。「橘」の香りがする。さらに左に縦線を加える。5炉目が廻ってくる。「甘」の香りがする。さらに左に縦線を加え、1炉目と横線でつなぐ。6炉目が廻ってくる。「乳」の香りがする。さらに左に縦線を加る。7炉目が廻ってくる。「甘」の香りがする。さらに左に縦線を加え、1炉目、5炉目と横線でつなぐ。8炉目が廻ってくる。「花」の香りがする。さらに左に縦線を加る。9炉目が廻ってくる。「乳」の香りがする。さらに左に縦線を加え、6炉目と横線でつなぐ。10炉目が廻ってくる。「渋」の香りがする。さらに左に縦線を加る。もう、先人が付けた名前はない。「言霊の海」と名付けた。
香元が答を発表する。正解だった。かぐや姫2号もこちらにVサインをしている。
不思議なことに、今日の「苦」の香木も無尽蔵で、正解の人に一片ずつ配られた。薫香録を香包みに折って納める。一生身につきますと言われた。窓の外を見ると、さっきの詩が星座になって見つめ返してくる。乗客は淡雪のように消えていく。ホームページの入り口に戻っていた。香包みは心に吸い込まれたのか消えている」。
いつもと違い、車掌が解説をした。
「なぜかぐや姫2号は、みすずの詩が好きなのでしょう。
今が辛く苦しい人には、自分より辛く苦しい思いをしている人が語る希望の言葉が、救いなのでしょう。
26歳で自殺したみすずは不幸だったのでしょうか。
幸不幸の気持ちは、その時々の感情の心の起伏に過ぎません。
心の天気みたいなものです。
幸福に思える時もあったし不幸に思える時もあったということです。
しかしたくさんの人に希望を与える言霊の星になった今は、本当の意味で幸福なのだと思います。
本当の幸福は、自分にではなく相手に生じさせるものなのです。
列車は「天の川操車場、面会所前」へ向かいます。
2つの物語が合流しての、最終回です」。
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