香炉屋日記290517銀河鉄道の夜
桜ケ丘記念病院延寿ホームから帰って、夕食後、パソコンにメールが入っていた。
差出人は、天の原財団、かぐや姫2号だった。
生きている妹の方だ。
お香の会の招待状だった。
アドレスを押して入る。
そこは前回と同じ、銀河2号列車の座敷だった。
「桜ケ丘記念病院延寿ホーム、甘の香席」と掲げている。
着席する。
香元を挟んで、数万人もの客が輪になって座っている。今、数万人がこのSNSでつながっている。体の無い言霊として参加している。かぐや姫2号もその中に居る。
鉛筆と、今日の「薫香録」の用紙が配られる。日付と下の名前をひらがなで書く。香元が香題を唱える。薫香録に文字が浮かんでくる。
青いお空のそこふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまでしずんでる、
昼のお星はめにみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
(金子みすず。星とたんぽぽ)
香元が宣言する。今日は二回目の香席ですので、香木を二種用いて組香をします。
今回の香木の名は甘です。感覚の心の苦痛を癒します。前回の乳と組香をします。
一回目の香炉が廻ってくる。乳の香りがする。
薫香録にその旨を記入する。
二回目の香炉が廻ってくる。透明な甘いかおりがする。花の蜜が朝露で薄まったような香りだ。これが甘の香木だ。確かに痛みが軽くなった感じがする。
薫香録にその旨を記入する。
三回目の香炉が廻ってくる。一回目と二回目のどちらかの香木が載せてある。甘だなと思う。
薫香録に答を記入する。
香元が答を発表する。甘だった。
かぐや姫2号もこちらにVサインをしている。
不思議なことに、今日初めて登場した甘の香木は無尽蔵で、正解の人に一片ずつ配られた。薫香録を香包みに折って、甘の香木を納め、一生身につけるように言われた。窓の外を見ると、さっきの詩の見えない星が流れていく。
乗客は淡雪のように消えていく。ホームページの入り口に戻っていた。香包みは心に吸い込まれたのか消えている。画面の時計では、入って出る間、ほんの数秒だった。疲れた。続きはまた今度にしようと、画面を閉じた。
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