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2017年5月 7日 (日)

香炉屋日記。290507花の香炉

連休最後の日。晴れ。今年初の黄砂の予報。

 

目や耳から入る光や音と、鼻から入る香りの違いについて考えさせられた。きっかけは今日の出来事だ。「君子怪力乱神を語らず」という。私は到底君子などではないが、それでもいい加減なことは話したくない。これは本当の話だ。

 

目や耳は左右が離れているので、音の発信源がどちらの方向にあるか分かる。発信源の位置や強弱の変化を感知して、何かが近づいているのか遠ざかっているのかも分かる。しかし、現在の現実しかわからない。鼻孔は互いに近く、同じ方向を向いているので、匂いの発生源の位置や動きはわからない。おまけに残り香が在って、昨日生じた匂いなのか、今生じている匂いなのかもわからない。ヒトはそれを補うために言葉を用いる。感覚の心が映す現在の現実だけでなく、言葉の心が記憶の過去や願望の未来を作り探るのだ。

 

明かりを点けずに一人で薄暗い店にいると、しみついた残り香に包まれて、何かが潜んでいるような、忍び寄って来るような、昔が今に満ちてくるような気分になる。慣れない場所でなら不気味だが、ここではかえって居心地良く、安らいだ気分になる。

 

昼過ぎ、うとうとして目覚めると、その客は、香りのように、知らぬ間に店に居て、棚の品を眺めていた。近づいて、話しかける機会を待ちながら、後ろ姿を眺めていると、部屋の奥の電話が鳴った。戻ってくると、もう居なかった。

何を眺めていたのだろうと棚に近寄った。それは或る客からマイ香炉として預かっているワイングラスだ。

 

来るたびにバラなどの花を入れて、色や香りを楽しんでいた。「自分が1年以上来なかったら処分していい」と言っていた。あの客は、何しに来たのだろう。感覚の現在にいたさっきの客と、記憶の過去のあの客が交叉した。

部屋にしみついた残り香が、夕闇と共に押し寄せてきた。

 

連休も最終日となると、人出は少ない。

早めに店を閉めて、夕食は何にしようかと考えた。

アサリが旬だ。アサリほど、旬と普段に差がある食材はない。

みそ汁もいいが、今日は厄払いで、トウガラシとニンニクを効かせた、パスタがいい。


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