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2017年5月

2017年5月31日 (水)

薫香源氏絵巻(第3回)

1. 観賞香。「樹の香」です。感情の心を象徴するという意味で「落ち葉の宮」としました。亡き夫からは「落葉」と思われていましたが、後に夫の親友に愛された人です。沈香の甘味の中の仄かな渋みが特徴です。感情の心の苦悩を癒してくれる感じがします。

2. 組香。三種香をしました。既に学んだ二香「乳」と「甘」とこの「樹」を3包みずつ用意します。混ぜ合わせます。そこから3包みを抜き出します。第一香は、「甘」でした。第二香も、「甘」でした。第三香は、「樹」でした。

3. かぐや姫1号は正解しましたので、列車は次の駅に向かいます。

4. 駅はあと7つです。次の駅は「銀の香」です。


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2017年5月30日 (火)

香心門 ベルホーム 290530

快晴。真夏日。

入所者6名。介護士さん3名。

人手が多かったので、香炉を増やし、点前などマンツーマンで手厚くした。

何を見ても、何をしても笑い転げる女性二人が、向い合せに座ったので、互いに涙を流しながら笑い合っていた。

女学生のようだ。

テレビ放送開始から間もなくの頃、きんぴら先生青春記というドラマをやっていた。私は10歳だった。

女学校に新任で来た男の先生が、女学生にもてはやされる場面が印象的だった。

そんな先生になった気分で、楽しかった。


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2017年5月29日 (月)

焼きそばパンと浦島太郎

昨日も今日も、昼食に、例のパン屋へ行った。やきそばパンは売り切れていた。普段も1,2個が、コロッケパンの隅に埋もれているだけだ。きっと1袋の焼きそばで作るだけなのだろう。しかし在庫切れが2日続けてなので、「製造中止かい」と、奥に声をかける。「数日前から男の人が来て、在るだけ買ってしまう」とのこと。ここまでは店主の日記。以下から別人の日記です。

私は、浦島太郎(仮名)です。これは店主の日記の数日後、私が書いています。色々あって、毎月1回、この店に来て、香席に参加して、議事録を書くことになりました。

まずは、ここまでの経緯をお話しします。定年になって、竜宮城から戻って元の浜に着いた浦島太郎のような気持ちになりました。この浜で生きていた実感が湧かず、心は竜宮城へ向かってしまいます。朝、あても無いのに、会社に来てしまいます。守衛さんも承知していて、同じような方が結構いるんですよと慰めてくれます。仕方なく、近くの神社のベンチで半日過ごしていました。焼きそばパンを買い占めていたのは私です。こんなことが続き、医師に相談して、無意識の記憶を鍛えれば、昔の記憶も活性化されると言われ、この店を紹介されました。玉手箱の煙で全部忘れた浦島太郎とは逆に、香炉の香りで、元の浜での生活を思い出したいのです。

一昨日は、中央林間のディサービスで、見学をしました。

今日、店に入ると、奥のテーブルに、先輩が2人座っていました。

今日のように、曇って、薄暗い天気の日には、出席者が少ないそうです。竜宮城の記憶が思い出されて、その呼び声について行ってしまうのだそうです

先輩はもう何年も通っていても、回復した様子には見えません。現状維持なら、それでいいと思います。

今日は私に合わせて、1種香をしました、これから古香を9種、沈香を11種、組香にして、記憶力を鍛えるそうです。香りの区別は無限にあるそうです。先輩方はすぐに忘れてしまうので、新人が来るたびに振り出しに戻っても、喜んでいます。

この後も、登場するかもしれませんのでお見知りおき下さい。


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2017年5月25日 (木)

香心門 中央林間地域包括支援センターディサービス 290525

曇り。

来所者15名。介護士さん1名。見学者1名。

春すぎて 夏来にけらし しろたえの 

ころもほすちょう あまのかぐ山  持統天皇

今日の会は、みなさん香を楽しみにしてくれている方々で、スムースに、和気あいあいと進行した。

聞香の点前も、互いのアドバイスで、滞りが無い。

笑いも絶えず、組香の緊張感も高かった。

何も書くことが無いのが残念だ。

最後に、一緒にいただいた、梅こぶ茶が美味しかった。


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2017年5月24日 (水)

香炉屋日記290524

今朝も五月晴れだ。

久しぶりに裏の窓を開ける。

朝の空気が爽やかだ。

五月の風とともに、近所の保育園から小鳥のような、ピーチクパーチクが流れ込んでくる。

4月に入園した子たちが、やっと、園の生活に慣れてきたころだ。

それでも未だ、親との別れを嫌がって泣き叫ぶ子もいる。

若い親はそれを振り払って、職場へ向かう。

人生にこれほどの悲しみは在っただろうか。

それも治まると、ピアノの音に合わせて、朝の挨拶の歌が始まる。

歌声もこれから徐々に揃っていくのだろう。

 

保育園で、喧嘩をして、泣いたことを思い出した。

私の人生も、あそこから始まったのだ。

 

罵る言葉を持っていると、罵る気持ちが湧いてくる。

攻撃する言葉を持っていると、攻撃する気持ちが湧いてくる。

悪い心の状態が悪い行いを引き起こし、悪い言葉を生みだすように思っているが、本当は、悪い言葉が、悪い心の状態を引き起こし、悪い行いを引き起こすのだ。

ヒトが言葉を作ったり、操ったりしているのでなく、言葉がヒトの心を作り、操っている。

言葉にはそういう働きがあるという意味で、昔のヒトは言霊と呼んだのだろう。

香りは、良い言霊を呼び寄せ、悪い言霊を洗う、手段の一つかもしれない。

 

おや、昼御飯の歌が始まった。

一段と元気な歌声がする。みんな一緒に何を食べるのだろう。

昼食は、例のパン屋で、焼きそばパンとアイスオ―レにしよう。


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2017年5月23日 (火)

香心門 よみうりランド花ハウス 290523

連日の真夏日。あすから和らぐとか。

日帰りの方々10名。介護士さん1名。

春すぎて 夏来にけらし しろたえの 

ころもほすちょう あまのかぐ山  持統天皇

聞香、献香。

終わって、片づけをしている時に、話しかけてくる人がいた。

10年ほど前、107歳だった母の見舞いに病院へ行って、桜を持参したが何も反応しなかった。翌日は梅の小枝を持参したら、眼を開いて「梅だね」と言った。ずっと疑問に思っていたが、今日香をして、香りだったのだと気が付いた。良い話を聞かせてもらった。

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2017年5月20日 (土)

香炉屋日記290520銀河鉄道の夜

昨日の夜中のうちに、天の原財団の指令室からメールが入る。

 

「一通り体験していただき、大体のイメージは理解していただけたと思います。

これからは、添付のアプリに、客の名と香題としての言霊の主をインプットすると、毎回の薫香録が作られ、香元を指名してきます。香元はそれに沿って、香席を進行します。

かぐや姫1号は源氏物語、かぐや姫2号は金子みすずの詩に傾倒しているので、それを用います。

どちらもこのサイト内の仮想空間で和香会に参席します。

今日は、かぐや姫2号の為の和香会です。

 

今年初の真夏日、年寄りは水分補給に気をつけるように、ニュースが伝えている。


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2017年5月19日 (金)

香炉屋日記290519-2銀河鉄道の夜

快晴。真夏の日差し。

店のパソコンに、かぐや姫1号からメールが入った。

紫式部主宰「言霊の和香会」の報告だった。

「深夜、お招き致しました曲水の宴で、香を観賞した後、観賞の披露の会を致しました。そちらでの香席のことです。

観賞のテーマは、薫香源氏絵巻(くんこうげんじえまき)でした。

第一香は、乳の香でした。体を象徴するという意味で「雲居の雁(くもいのかり)」としました。光源氏の息子と初恋を実らせて結婚、七人の子供の母となった人です。

第二香は、甘の香でした。感覚の心を象徴するという意味で「朧月夜(おぼろづきよ)」としました。皇太子妃となるよりも、光源氏との恋に生きようとした、情熱的な人です。

主宰者である紫式部は、今は20回目の言霊として、私と同じ銀河鉄道の乗客です。作品である「源氏物語」は、天の原の星座となって、輝き続けています。」

 

今日は、暑い中、あちこち歩き回って、ビールが飲みたい。

帰宅して稀勢の里がどうなったかも、早く知りたい。


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香炉屋日記290519

昨夜、夢を見た。今はない実家の勉強部屋で、目が覚めた夢だ。

押し入れのふすまの隙間から光が漏れている。

そっと開くと、そこは天の川を見渡す岸辺だ。

細い光の流水が、曲がりくねっている。曲がり角のそれぞれに、緋色の毛氈と野点て傘が設けられて、人が座っている。かぐや姫1号もいる。

流れてくる香炉が自分の前を通り過ぎるまでに和歌を読み、次へ流す、曲水の宴。香席そのものだ。

昼間、「源氏物語に親しむ会」の人々に、香りを覚える秘訣は、言葉に変える事だと教えた事を思い出した。

源氏物語の女性たちと香りの対比。次回はそれをテーマにしよう。薫香源氏絵巻(くんこう げんじえまき)

辛の香紫の上。甘の香朧月夜。苦の香浮舟。花の香紫の上。渋の香明石の上の香落葉宮。橘の香花散る里。乳の香雲居雁。銀の香朝顔皆、実在する香木の香りだ。


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2017年5月18日 (木)

香心門 シリウスお香の日の会 290518

雨のち晴れ。

源氏物語に親しむ会から3名。一般の方3名。

源氏香に挑戦の3回目。三種香(さんしゅこう)をした。

3回の聞香の関係を図に表すゲームだ。

終わって、時間が余ったので、2種の香りを、名前とセットにして、記憶する練習をした。

覚える極意はないですかと聞かれた。

たとえば歴史の年号は、見ただけでは覚えられない。心の中で数字として読むと一時、覚えられる。さらに「1192いいくに」鎌倉幕府が開かれたという文章にすると、一生忘れない。「香りに言葉をつけること」と答えた。


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2017年5月17日 (水)

香炉屋日記290517-2銀河鉄道の夜

曇り。肌寒い。

店から帰宅すると、メールが入っていた。

差出人は天の原財団のかぐや姫2号。

あの世を移動中の姉の方だ。

「先日は、妹と、延寿ホームのお香の会にご参席いただき、有難うございました。おかげさまで、姉妹二人とも甘の香木を手に入れることが出来ました。

これで、前回の乳の香木と合わせて、2種の香木を得ることが出来ました。

妹の、未来を求める旅、そして私の再生を求める旅が、2駅進みました。

妹が、言霊(香木)を得ると、私も得ることになります。なぜなら、言霊は全体で一つだからです。誰かが得た言霊を話すと、聞いたヒトの言霊になり、その人が話すとそれを聞いたヒトの言霊になる。そうやって、昔の誰かが最初に話した言霊が、今、全人類の言霊になっています。一人一人の心をつなぐ言霊の糸が、網の目のように張っていて、かき混ぜ過ぎた納豆のように、一つひとつの区別が消えて大きな一つになっています」。

「この先の、ゴールまでについてお話します。同じ香木や香水の瓶でも、香りは無限にあります。なぜなら、香りは香木や瓶の中に在るのではなく、香りを聞くヒトの心が、その時、その場で作っているからです。香りを作る心にも3つあって、感覚の心は嗅覚細胞の刺激を受けて快不快の興奮を作ります。犬や象の方が優れているとか、ヒトだって数十万種、学者によっては数兆種の匂いをかぎ分けられるとか言われます。感情の心は苦楽や安不安の興奮を作ります。香道で言う香は、言葉の心(大脳新皮質の前頭前野)が作る言葉のことです。言葉は無限に作れます。しかしそれでは、この鉄道の構造を語ることはできません。便宜的に11種、11駅とします。あと9種の香木を手に入れればゴールです」。

「私は紫式部の言霊が主宰する「源氏物語に親しむ会」で学んでいます。明日はよろしくお願いします」。

明日‼、確かに「源氏物語に親しむ会」のメンバーと「お香の日の会」の予定だ。この世とあの世の話が混線している。不思議だが、それなりの仕掛けがあるのだろう。パソコンを閉じた。


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香炉屋日記290517銀河鉄道の夜

桜ケ丘記念病院延寿ホームから帰って、夕食後、パソコンにメールが入っていた。

差出人は、天の原財団、かぐや姫2号だった。

生きている妹の方だ。

お香の会の招待状だった。

アドレスを押して入る。

そこは前回と同じ、銀河2号列車の座敷だった。

「桜ケ丘記念病院延寿ホーム、甘の香席」と掲げている。

着席する。

香元を挟んで、数万人もの客が輪になって座っている。今、数万人がこのSNSでつながっている。体の無い言霊として参加している。かぐや姫2号もその中に居る。

鉛筆と、今日の「薫香録」の用紙が配られる。日付と下の名前をひらがなで書く。香元が香題を唱える。薫香録に文字が浮かんでくる。

 

青いお空のそこふかく、

海の小石のそのように、

夜がくるまでしずんでる、

昼のお星はめにみえぬ。

見えぬけれどもあるんだよ、

見えぬものでもあるんだよ。

(金子みすず。星とたんぽぽ)

 

香元が宣言する。今日は二回目の香席ですので、香木を二種用いて組香をします。

今回の香木の名は甘です。感覚の心の苦痛を癒します。前回の乳と組香をします。

一回目の香炉が廻ってくる。乳の香りがする。

薫香録にその旨を記入する。

二回目の香炉が廻ってくる。透明な甘いかおりがする。花の蜜が朝露で薄まったような香りだ。これが甘の香木だ。確かに痛みが軽くなった感じがする。

薫香録にその旨を記入する。

三回目の香炉が廻ってくる。一回目と二回目のどちらかの香木が載せてある。甘だなと思う。

薫香録に答を記入する。

香元が答を発表する。甘だった。

かぐや姫2号もこちらにVサインをしている。

不思議なことに、今日初めて登場した甘の香木は無尽蔵で、正解の人に一片ずつ配られた。薫香録を香包みに折って、甘の香木を納め、一生身につけるように言われた。窓の外を見ると、さっきの詩の見えない星が流れていく。

乗客は淡雪のように消えていく。ホームページの入り口に戻っていた。香包みは心に吸い込まれたのか消えている。画面の時計では、入って出る間、ほんの数秒だった。疲れた。続きはまた今度にしようと、画面を閉じた。


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2017年5月16日 (火)

香心門 桜ケ丘記念病院延寿ホーム 290516

鬱陶しい曇り。

入所者12名。介護士さん1名。

春すぎて 夏来にけらし しろたえの 

ころもほすちょう あまのかぐ山  持統天皇

15分前に着いたが、すでに着席していた。

楽しみにしてくれているのがうれしい。

前回の出席簿を覚えなおして、全員の名を呼んだ。

みなさん、とてもうれしそうだった。

組香と献香。

献香で、合掌している姿を見ると、一人一人に、愛してくれた両親が居て、見守っているのだなと思う。


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香炉屋日記 290516銀河鉄道の夜

早朝。晴れ時々曇り。梅雨の気配。

メールが入っていた。かぐや姫1号からだ。

「昨日は妹が有難うございました。次はこちらにお越しください」。アドレスが付いている。

押して入ると、鉄道の管理センターのようだ。正面の画面いっぱいに、配線図のような複雑な経路が映っていて、無数の光の点が移動している。

大きな2つの渦巻きになっている。それぞれの路線の列車を示す光の点は、外側から内側に円を描いて向かっている。それぞれの中心点は3次元空間でつながっている。

「私1号は左の渦巻きのこの点が示す銀河1号列車に、妹の2号は右の渦巻きのこの点が示す銀河2号列車に載っています」。

「いつか私が体を得たら右の渦巻きの路線に入って、列車も銀河2号になります。妹が体を失ったら、左の渦巻きの路線に入って、列車も銀河1号になります。みんなこうしてぐるぐる廻っているのです。ヒトの本質は体ではなく、言霊なのです。体を乗り換えてぐるぐる廻っているのです」。

「言葉が発信されるたびに、本や記録がヒトに読まれるたびに、この転換が生じています」。

「幼くして体を失った私でも、言葉を発信しています。私を見たり触れたりした人々の心に言葉が生じるのです。それは私が発信した言葉となります」。

「あなたは、私が送るメールのアドレスを押すと、私が乗る銀河1号列車に、妹が送るメールのアドレスを押すと、妹が載る銀河2号列車に乗車します」。

壮大なフィクションだなと思う。現実のリアルの方が空想のフィクションより確かだと思っていた。しかし、視点を、一人の人間の心に移すと、フィクションが本物で、リアルは幻想だとも思える。色即是空とはこのことかと思う。


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2017年5月15日 (月)

香炉屋日記290515銀河鉄道の夜

九州は梅雨入り。関東も曇り。

店に着いて窓を開け、昨日の残り香を追い出していると、中学生くらいの少女が、ドアから恐る恐る覗いていた。

何処かで見た顔だ。

あのアニメの少女だ。

君はかぐや姫だねと話しかけた。

ええ、でも1号か2号かわかりますかと笑顔で答えた。

アニメの子が姉の1号です。私は、画面に手しか映っていなかった2号です。

双子です。

祖父母や父母、姉が、津波で流されて、姉だけが見つかりませんでした。

弟と私が残りました。

学校をさぼって、たくさんの人々を祀るこの神社と、この店を訪ねてきました。

二つの願いを言った。

一つは姉について。姉を取り戻したい。もう子供ではないので、生きかえらせるというような体のレベルではなく、心として身近な存在に戻って欲しい。もし輪廻転生があるなら、幸福になれる人に生まれて欲しい。

もうひとつは、自分の事。生きていることの意味や生きようとする気力、将来の夢や希望を取り戻したい。

話の続きはあのサイトでゆっくりすることにして、小さなお香セットを渡した。

お香に出来ることは在るだろうか。ぼんやり考えながら、客の来ない店で夕方まで過ごした。

あさりが美味しい。新じゃがも、美味しい。今夜は久しぶりにブイヤベースだ。ワイン通の友人から教えられた赤ワインをセブンイレブンで買う。ヨセミテと言う名で、500円。ソムリエが推奨だそうだ。値段も味のうちだ。


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2017年5月14日 (日)

香炉屋日記290514銀河鉄道の夜

今夜、パソコンをチェックすると、メールが入っていた。

差出人は、天の原振興財団、かぐや姫1号とあった。

次回はこちらへと、アドレスが書いてある。

そのアドレスを押すと、「天の原探香團」というに部屋に入った。

入り口で、動画の少女が迎え、メニューを見せる。

一番上の「大災害」を頼む。

 

画面が現れる。

揺れる携帯の画面だ。

沖から海水が押し寄せて、せりあがって、眼下の家や工場や車を呑みこんでいく様子が映る。

雪が降っている。

悲鳴や呼び声が聞こえる。

テロップが流れる。

「災害とは何だろう。隕石の衝突、火山の噴火、地震や洪水などがある。さらに動植物や微生物からの攻撃もある。一番多いのは、人間同士の攻撃だ」。

「社会組織や建物への被害は歴史に刻まれるが、残された人々の心の被害は記されず忘れられる」。

「初めは絶望、心の活動停止だ。感覚や感情の心が回復してやっと悲しみや苦しみが生じる。動物としての心の活動開始だ。言葉で目的を作り、勇気を奮って挑戦する。必要なら我慢や努力もする。そのことが喜びになる。ヒトとしての心の活動開始だ。そんな風に心は回復していくのだろう」。

「この過程が、心の瓦礫撤去作業だ。この物語は、残された者たちの心の瓦礫の撤去の記録だ」。

 

場面が変わり、少女の家族の葬儀や家の瓦礫の片付けが映る。

さらに場面は変わり、6年経っている。少女はもう中学生だ。スマホで、「天の原振興財団」のサイトを見ている。

銀河鉄道」というボタンを押す。画面の障子が開いて、縁側の向こうに夕焼け。大きな山がそびえている。脇に香炉があって香りが立ち上っている。

「かぐや姫になりたい」というボタンを押す。

かぐや姫2号の誕生ですという音声が流れる。

あれ、1号じゃないのか。

明日は早い。もう寝なければ。画面を閉じた。

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2017年5月11日 (木)

香炉屋日記290511銀河鉄道の夜(2/11)

本の裏に、天の原振興財団とあり、ホームページのアドレスがあった。製本したり、届けてくれたりした人の正体がわかるかもしれない。自宅へ帰ってから、その夜、パソコンで開いた。多摩丘陵に在る老健施設の本部だった。

関連施設の写真があって、理事長挨拶の欄に、高齢の男性の笑顔の写真があった。見覚えがある顔だが思い出せない。その片隅に香心門という看板がかかったSNSの入り口があった。

ボタンを押して入場。いくつかの部屋がある。問題の銀河鉄道の夜という部屋に入った。室内に九つのドアがあって、いくつかの老人施設に続いている。昨日の昼に行ったひらお苑があったので入る。

そこはお座敷列車の中だった。落語の舞台にあるような立て札に「乳の香席」と書かれている。

着席する。

香元を挟んで、数万人もの客が輪になって座っている。座席は時計に例えれば、香元が12時、私は0時1分の位置だ。香席ではすべてが時計と逆に廻る。私は最下座だ。今、数万人がこのSNSでつながっている。体の無い言霊として参加している。

鉛筆と、今日の「薫香録」の用紙が配られる。日付と下の名前をひらがなで書く。ここまでは昼間の和香会と一緒だ。香元が香題らしきものを唱える。良く聞こえない。薫香録に文字が浮かんでくる。あれ、これは昔、父の葬式で僧侶が唱えた文章だ。ひどく強迫的で、とても嫌な気持ちになったことを思い出した。なんでこんなのがと思う。

香元が宣言する。今日は初日で、香を一種しか用いない観賞香をします。香の名は乳です。

香炉が廻ってくる。乳の香りがする。といっても沈香の甘い香りに紛れた微かな香りのクセに過ぎない。甘みに少しの苦味が混ざっている。牛の乳というより記憶の彼方の母の匂いだ。この香りを言葉にして薫香録に書くと、体へのこだわりが消えると言われる。体へのこだわりが消えたら、生きていられないじゃないか。ここは変な宗教団体かと警戒心が湧く。右の横に居る香元に香炉を返しながら、そう伝えたが、香元は笑いながら何も答えなかった。香元が教祖なら言うだけ無駄だった。私は疑っているが、みなは真剣に書きこんでいる。徐々にみなの表情が軽くなっていく。

薫香録を読みなおす。「さて、自分の生きてきた道を振り返ると、何も残らない1回限りの旅だったな、という思いがする。不老不死なぞなく、人生は短い。百年も続かない。早い遅いはあっても、いつか誰もが来た処へ帰る。その時を迎えてから何をしても無駄だ。いくらねんごろに弔ってもらっても、もう意味はない。だから、いつ終わりが来てもいいように心構えをして、生きよう。見える体にこだわって、現実の成り行きにまかせるのでなく、言葉で、あるべき自分を作って目指して生きよう」。これは死者を利用して遺族を脅す因習宗教でなく、生者に生きようとする気力を与える文章だった。

そうかここに居る人々は、あの地震や津波で、大切な人を失った人たちなのだ。失われた家族を、体から言葉に変える。それは、新しい一歩を踏み出す為の、心の準備なのだ。

不思議なことに、用いた香木片は無尽蔵で、全員に一つずつ配られた。薫香録を香包みに折って、その香木を納め、一生身につけるように言われた。窓の外を見ると、光星が散りばめられた暗い空間が流れていく。乗客は淡雪のように消えていく。ホームページの入り口に戻っていた。香包みは心に吸い込まれて消えていた。画面の時計では、入って出る間、ほんの数秒だった。疲れた。続きはまた今度にしようと思い、画面を閉じた。


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2017年5月10日 (水)

香心門 ひらお苑 290510

1日中、霧雨が新緑を濡らしていた。

日帰りの体験入所者8名。介護士さん1名。理事長さん見学。

この施設の貴賓室を使った。

みなさん昭和生まればかり。

茶の心得のある方も多く、優雅な雰囲気で香を楽しむことが出来た。

春すぎて 夏来にけらし しろたえの 

ころもほすちょう あまのかぐ山  持統天皇

里山の中腹なので、庭から、色々な小鳥の声がする。

今年初めてのウグイスも聞こえた。

いい香席だった。


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2017年5月 9日 (火)

香心門 プレマみなみ風 290509

晴れ。爽やか。

入所者3名。介護士さん1名。

春すぎて 夏来にけらし しろたえの 

ころもほすちょう あまのかぐ山  持統天皇

人数はさびしかったが、常連の女性ばかりで、楽しくできた。

連休中、帰宅や墓参りが出来なかった人も居て、喜んでくれた。

来月、リクライニングの人の為の「お香かふぇ」を開くことになった。

香りを満たした部屋で、音楽とのコラボだ。

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2017年5月 8日 (月)

香炉屋日記290508銀河鉄道の夜

晴れ。暑いほど。

6年前、ここが開店した頃の話を思い出した。

若い女性が入ってきた。

「香かふぇ」という看板に惹かれ、喫茶店のつもりのようだ。

奥の席に座った。

ここは、飲み物ではなく聞き物つまり香りの店だと説明した。

メニューを見て、良く分からないので、何か一服、という。

香炉の準備をして、テーブルに置いて、花の沈香を載せる。

香の聞き方は知っているようだ。

しばらく楽しんで、香炉を置いて、本を開いて読み始めた。近所の古書店のブックカバーが懸っている。

小一時間ほどいて、街の雑踏に消えていった。棚の片付けなどをしてから、テーブルに行くと、本が在った。表紙を開くと、「銀河鉄道の夜」だった。パソコンで作った本だ。持ち主の手掛かりを探して、表紙を開いた。あの東日本大震災が舞台だ。あの頃自分がSNSへ投稿したままの内容だった。それを誰かが製本したのだ。何とも嬉しい。

ブックカバーの古書店の店主とは顔なじみだ。電話をして、少し前に手作りの「銀河鉄道の夜」を買った女性の客は居ないか聞いた。そんな本は見たことがないという。

製本した人、読んでいた人は誰だったのだろう。私だと知っていてこの店に来て、置いていったのだろうか。続きを書けということなのか。

あれから6年経った。忘れかけていた感情がよみがえってきた。

あの時の気持ちを忘れないうちに、もう一度続きを書いてみようと思う。

復興とは何をどうすることなのだろう。あの時は、町や村を元にもどすことだと思っていた。しかし今は、町や村のことではなく、一人一人の心の復興のことだったのだと思っている。

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2017年5月 7日 (日)

香炉屋日記。290507花の香炉

連休最後の日。晴れ。今年初の黄砂の予報。

 

目や耳から入る光や音と、鼻から入る香りの違いについて考えさせられた。きっかけは今日の出来事だ。「君子怪力乱神を語らず」という。私は到底君子などではないが、それでもいい加減なことは話したくない。これは本当の話だ。

 

目や耳は左右が離れているので、音の発信源がどちらの方向にあるか分かる。発信源の位置や強弱の変化を感知して、何かが近づいているのか遠ざかっているのかも分かる。しかし、現在の現実しかわからない。鼻孔は互いに近く、同じ方向を向いているので、匂いの発生源の位置や動きはわからない。おまけに残り香が在って、昨日生じた匂いなのか、今生じている匂いなのかもわからない。ヒトはそれを補うために言葉を用いる。感覚の心が映す現在の現実だけでなく、言葉の心が記憶の過去や願望の未来を作り探るのだ。

 

明かりを点けずに一人で薄暗い店にいると、しみついた残り香に包まれて、何かが潜んでいるような、忍び寄って来るような、昔が今に満ちてくるような気分になる。慣れない場所でなら不気味だが、ここではかえって居心地良く、安らいだ気分になる。

 

昼過ぎ、うとうとして目覚めると、その客は、香りのように、知らぬ間に店に居て、棚の品を眺めていた。近づいて、話しかける機会を待ちながら、後ろ姿を眺めていると、部屋の奥の電話が鳴った。戻ってくると、もう居なかった。

何を眺めていたのだろうと棚に近寄った。それは或る客からマイ香炉として預かっているワイングラスだ。

 

来るたびにバラなどの花を入れて、色や香りを楽しんでいた。「自分が1年以上来なかったら処分していい」と言っていた。あの客は、何しに来たのだろう。感覚の現在にいたさっきの客と、記憶の過去のあの客が交叉した。

部屋にしみついた残り香が、夕闇と共に押し寄せてきた。

 

連休も最終日となると、人出は少ない。

早めに店を閉めて、夕食は何にしようかと考えた。

アサリが旬だ。アサリほど、旬と普段に差がある食材はない。

みそ汁もいいが、今日は厄払いで、トウガラシとニンニクを効かせた、パスタがいい。


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2017年5月 5日 (金)

香心門 金井原苑 290505

晴れ。夏の日差し。

ディサービス来所者5名、介護士さん1名、助手1名。助手の妹さん1名。

春すぎて 夏来にけらし しろたえの 

ころもほすちょう あまのかぐ山  持統天皇

今日の日和が、和歌にぴったり。

組香。

献香。

隣室では、合唱の歌声。

園亭は花盛り。

現役の人々とは別の、おだやかな連休があった。

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2017年5月 4日 (木)

香炉屋日記290504焼きそばパン

今日も暑からず寒からず、良い連休の一日になりそうだ。

参道に露店が並んでいる。

きっと食べ物の屋台もたくさん出ているだろうと思うと、急に空腹になった。昼食にしよう。その旨の札をドアに掛けて、戸締りをした。

このビルの裏に、喫茶を兼ねたパン屋がある。白い前掛けのおじいさんとおばあさんが忙しそうにパンを焼いたり、接客をしたりしている。私は焼きそばパン専門だ。焦げた香辛料が食欲以上のものを誘う。

 

中学生になると給食が無くなり、弁当か、購買部でおばさんから菓子パンと牛乳を買って食べた。昼休み、好きなパンが売り切れる前にと、廊下を走って叱られた。私は、焼きそばパンとコーヒー牛乳が好きだった。

 

昔、美味しいと思った食べ物が、歳をとった今、食べても、それほどでないことはよくある。しかし、このパンは昔のままだ。

焼きそばには何も入っておらず、ソースだけで、油感もない。少量の紅ショウガがまぶしてある。パンの切り込みに、焼きそばが、はみ出すように押し込んである。プラスチックの袋が窮屈そうだ。

中身がこぼれないように端からかぶりつく。昔と違うのは、パンがほのかに甘く、ソバの量が2倍に増えている。贅沢な時代になった感がある。

 

もうひとつ思い出の味がある。子供の頃に時代劇で大好きな番組が在った。「素浪人月影兵庫」主演は、近衛十四郎。旅の主人公が、苦境に陥る善人を助け、悪人を懲らしめる話だ。一件落着の後、お礼にと、茶店などで安い酒とつまみを振舞われると、それまで謹厳実直だった相好が崩れて、意地汚い酒飲みに豹変するのが面白かった。特にオカラが好物で、箸でつまんで掌に移して、酒と一緒に口に放り込むのが堪らなかった。それ以来、私にとって、オカラは空想上の珍味になった。

 

焼きそばパンもオカラも、味覚や嗅覚という感覚だけを味わっているのでなく、記憶や願望という言葉も味わっている。

心が成熟するに従って言葉の味が濃く感じられるようになっていくのだと思う。

香りについても、若い人は、甘い香りや辛い香り、レモンのような爽やかな酸味を好む。

熟年になると、発酵食品のような複雑な酸味、塩味、苦みや渋みも好きになる。

香りの侘び寂びだ。

 

孫が夕食に来る。早仕舞して、投稿して、帰ろう。

008

2017年5月 3日 (水)

香心門 グレープの里 290503

晴れ。爽やか。

連休の谷間を越えた5連休の初日。

家族旅行の為、お泊りの方が増えて、にぎわっていた。

来所者5名。介護士さん1名。

今日から5月の和歌。

春すぎて 夏来にけらし 白妙の 

衣ほすてふ 天の香具山   持統天皇

女性の天皇。

百人一首のカルタの中で、絵が一番美しく、皆がねらう。

組香と献香。

隣室から「山小屋のともしび」を合唱する歌声が聞こえてきた。

司会者の説明が聞こえた。この歌は、私が生まれた年に出来たそうだ。

そう言えば、今朝のニュースで、憲法も同じ年に出来たのだと言っていた。

帰宅すると、テレビで総理大臣が2020年に憲法改正を目指すと言っていた。

私は、2020年に何を目指そう。

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2017年5月 2日 (火)

香炉屋日記290502

爽やかだが霞んだ晴天。

連休の午前はかえって閑散としている。

人出は午後だ。

昼過ぎに、昨日の婦人が来た。

火が付いた炭団を摘まむ、火箸が欲しいとのこと。

香道で使う、火道具4点セットを見せた。

香火箸、灰押さえ、銀葉、銀葉はさみだ。

これなら、香木を焦がさず、炙るので、澄んだ香りが楽しめるというと、喜んだ。

使い方も教えた。

細長い箱を取り出し、貰って欲しいと言った。

箱の中身は、煙管(きせる)だ。

御亭主が昔の専売公社に勤めて退職祝いにもらい、使わないままだそうだ。

私も煙草は苦手だ。

しかし、香炉も煙管も、植物を加熱して、香りや煙にして楽しむ道具としては同じだ。

香炉には無い利点が見つかるかもしれないと思い、有難く頂戴した。

 

香木にもパンの耳のような部分がある。

聞香に用いるには香りが弱く、焼香なら充分という感じだ。

香木を分別する過程で出てくる。

焼香より良い用途があるはずと探している。

煙管は、さて、どうだろうか。

 

煙管は、金属製の吸い口と火口、途中の竹の3つの部品から出来ていて、引き抜けるようになっている。

先ず火口を抜き、次に吸い口を抜いた。

吸い口に隠れた竹の端に、鋭い線で「依田」と彫られていた。

あの婦人のご亭主の名は依田だったのかと思う。

 

ふと、小学校の同級生に依田君というのが居たことを思い出した。

笑顔も声もよみがえった。

依田という人は、数百人は居るだろうし、過去をさかのぼれば数千人、未来には無限に居る。

その中の特定の一人である同級生が依田なのか、依田という名の人のすべてが同じ一つの依田なのか。

分かりにくいかも知れないが、私にとってのこの世のすべては、私が知る言葉で、それを昔の人は「言霊(ことだま)」と言ったのだと思っている。

私にとって、依田という言霊が依田君なのだ。

この煙管はあの依田君からの贈り物なのだ。

この煙管は、私にとって大切な意味を持つのだろう。

心の底からそう思えて、うれしかった。

昔から幸運はそんな風にやってきたからだ。

 

香木を刻んで、刻み煙草のようにした。

火口に入れて軽く押さえた。

ライターの火を近づけ、軽く息を吸うと、炎が火口に吸い寄せられて、香木を焼いた。

肺に入れないように、口の中でふかした。

火口からの煙と芳香が部屋を満たした。

後味は爽やかで、玉露のような甘い感じがする。

沈香は、感覚や感情の心を鎮静する働きがある。

自分へのこだわりが消えて、ドローンのように天井から自分や周囲を見降ろしているような気分になる。

依田君の事を考える。

自分と依田君の区別が無い。自分即ち依田君になる。

依田君の考えは、すなわち自分の考えになる。

喜怒哀楽のない世界だ。記憶や願望の言葉だけの世界だ。

依田君の記憶や願望は、すなわち自分の記憶や願望だ。話し合うというより、同じ本を一緒に読んでいる感じになる。

あの世に深入りし過ぎた感じがしたので、止めることにした。

窓を開けて換気、深呼吸をした。

この世に戻ろう。

夕食はカツオの刺身だ。

久しぶりに一杯やろう。

008

2017年5月 1日 (月)

香炉屋日記290501

午前中は晴れて穏やかだった

月曜日でも、連休の合間なので、神社も街も、にぎわっている。

しかし、昼から、 一天にわかにかき曇り、暗くなって、人影が消えた。

雷鳴と共ににわか雨、やがてすぐ近くに雷が落ちた。

おとといはミサイル騒ぎで地下鉄が止まった。

今日は何事も無く、黒雲が過ぎて空が明るくなって、人の波が戻った。

店のドアの鈴が鳴って、老婦人が入ってきた。

傘を持ったまま、話しかけてきた。

湯呑を香炉にできると聞いて、来たのだそうだ。

灰を入れ、炭団に点火して、香材を載せるだけで良いので、そのように伝えた。

灰と炭団と、香木を少し買った。

傘を置いて、湯呑を出してもらい、灰の袋を切って、湯呑に7分目ほど入れ、炭団の点火の仕方と、香木の切り方などを教えた。

うれしそうに紙箱に入れて提げて帰った。

何故湯呑を香炉にしたいのか。

仏壇にでも供えたいのだろうと思った。

この商売は、応用問題が多い。

そろそろ竹の子もスーパーの店頭から消えた。

今夜は、最後の一かけらで、青椒肉絲だ。

今年最後だ。

008

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